2026年6月12日の朝、日本の新しい主力ロケット「H3」の6号機が、種子島宇宙センターから打ち上げられました。JAXA によると、打ち上げは午前9時53分。第2段を予定の軌道に届け、ミッションは成功しました。
その打ち上げを伝えるニュースの映像を見て、我が家でこんな話になりました。「あれ? いつもみたいに、もくもくの白い煙が出ていないね」。言われてみれば、たしかに。これまでニュースで見てきたロケットの打ち上げは、足もとから真っ白な煙が大きく噴き出していた記憶があります。今回は、それがずいぶん控えめに見えました。
これは気のせいではありません。今回の H3 は、これまでとは機体の構成そのものが違ったのです。この「煙が少ない」という気づきから、その理由をたどってみます。
答え合わせ ── 今回は「ブースター」を使わなかった
ロケットの脇に、細い筒がくっついているのを見たことがあるでしょうか。あれは固体ロケットブースターといって、打ち上げの最初のひとふんばりを助ける“補助エンジン”です。今回の6号機は、この固体ブースターをひとつも付けない「H3-30形態」という新しい姿で飛びました。SPACE CONNECT などの報道によれば、これはH3-30形態の初めての飛行でした。
もくもくの白い煙は、実はこの固体ブースターから出ていたもの。だからブースターをやめた今回は、煙がぐっと少なく見えたというわけです。素人の気づきも、ちゃんと機体の違いを言い当てていたのでした。
なぜ固体ブースターは、あんなに煙を出すの?
固体ブースターの“燃料”は、ゴムのような材料に、燃えるのを助ける薬品と、そしてアルミニウムの粉を混ぜて固めたものです。アルミを混ぜるのは、より大きな力を出すため。ところがこのアルミが燃えると、酸化アルミニウムという白い細かな粒が大量にできます。あの真っ白い煙の正体は、この粒なのです。
いっぽう、機体の中心にある液体エンジン「LE-9」は、液体水素と液体酸素を燃やして進みます。水素と酸素が燃えてできるのは、基本的に水(水蒸気)。JAXA も「液体水素と液体酸素の燃焼ガスは透明になるはず」と説明しています。つまり、ブースターがなければ、出てくるのは煙というより湯気に近い。今回スッキリ見えたのは、このためです。
もくもくの白い煙=固体ブースターのアルミが燃えてできる粒。
液体エンジン LE-9 の排気=ほぼ水蒸気で透明。
ブースターを使わなかった今回は、その白い煙が出なかったのです。
これまでの H3 は、ずっとブースター付きだった
では、これまでの H3 はどうだったのか。たとえば2023年に初めて飛んだ試験機1号機は、液体エンジン2基の左右に固体ブースターを2本付けた姿でした。打ち上げのたびに、あの白い煙が大きく出ていたのは、ブースターを使っていたからなのですね。
ここで、ちょっとおもしろい“ナゾ”があります。今回は6号機。でも、実はその前に飛んだのは7号機や8号機でした。番号が後の機体のほうが、先に飛んでいるのです。
これは、H3の「○号機」という番号が打ち上げた順ではなく、計画で割り当てられた順だから。どの衛星をどの機体で運ぶかは前もって決められていて、準備の都合で打ち上げの順番が前後することがあります。打ち上げを古い順に並べてみると、こうなります。
| 機体 | 打ち上げ | 主なペイロード | 結果 |
|---|---|---|---|
| 試験機1号機 | 2023/3/7 | だいち3号 | 失敗 |
| 試験機2号機 | 2024/2/17 | 小型衛星ほか | 成功 |
| 3号機 | 2024/7/1 | だいち4号 | 成功 |
| 4号機 | 2024/11/4 | きらめき3号 | 成功 |
| 5号機 | 2025/2/2 | みちびき6号機 | 成功 |
| 7号機 | 2025/10/26 | HTV-X1 | 成功 |
| 8号機 | 2025/12/22 | みちびき5号機 | 失敗 |
| 6号機 | 2026/6/12 | VEP-5ほか | 成功 |
こうして並べると、6号機が“最後”に飛んだことがよく分かります。打ち上げ実績を数えると、H3はこれで通算8回・成功6回。番号の数字と打ち上げ順がずれているのは、知っているとニュースが読みやすくなる小さなコツです。
ブースターなしは「日本初」、そして何を運んだ?
固体ブースターを使わず、液体エンジンだけで打ち上げる ── これは見た目が変わるだけの話ではありません。SPACE CONNECT によれば、大型の液体ロケットを補助ブースターなしで打ち上げたのは日本初。ブースターをやめると打ち上げる力は控えめになりますが、そのぶん機体をシンプルに、費用を抑えて運用できます。軽い衛星のときはこの安い構成で、重い衛星のときはブースターを足して、と“使い分け”られる柔軟さが、新しい H3 のねらいです。
今回その新しい姿で宇宙へ運ばれたのは、まずVEP-5という、ロケットの性能を確かめるための“おもり”の役目をする模擬の衛星。さらに、大学やベンチャーがつくった小型の衛星6機も相乗りしました。東京科学大学の「PETREL」、静岡大学の「STARS-X」、九州工業大学などの「VERTECS」といった顔ぶれです。JAXA の発表では、メインのミッションに加えて、この小型衛星6機すべての分離にも成功しました。
失敗から半年での、再起
この打ち上げには、もうひとつの意味がありました。上の表のとおり、直前に飛んだ8号機(2025年12月)は、第2段のエンジンがうまく働かず、衛星を予定の軌道に届けられないまま失敗に終わっていたのです。
JAXA は年末年始も原因の調査を続け、衛星を支える部分(PSS)の不具合が引き金になったとみて対策をまとめました。朝日新聞は、その究明を経て約半年という比較的短い期間で打ち上げを再開できた経緯を伝えています。失敗の翌々の一手が、新しい「ブースターなし」への挑戦でもある今回の成功 ── 派手な煙はなくても、中身はとても濃い一日でした。
ゲームの中で、重力で軌道に乗せる
最後に、少しだけ自分たちのゲームの話を。私たちがつくっている「Gravity Weaver」は、重力を描いて光を導き、太陽系を越えていくパズルゲームです。狙った方向へ、ちょうどいい速さで“軌道に乗せる”むずかしさは、ささやかながら本物のロケットと地続きの感覚があります。
本物の打ち上げは、燃料の選び方ひとつで煙の色まで変わる。そんな“理由のある景色”を、ニュースで見た「あれ?」から家族でたどれたのは、楽しい時間でした。次の打ち上げを見るときは、ぜひ煙の出方にも注目してみてください。ブースターの有無が、ひと目で分かるかもしれません。
