今朝、同僚から「ISS が飛んでいくのを動画で撮ったよ」と聞きました。「え、撮影できるレベルで見えるんですか」と素で驚いて、そこから「そもそも ISS って、何で・どこにいて・誰が乗っているんだっけ」と気になって調べ直したのが、この記事です。
結論からいうと、ISS は 夜空で「最も明るい人工の星」。条件が良ければ金星よりも明るく、シリウスの 16 倍。3〜5 分かけて空をすーっと横切ります。瞬かないので、すぐに「これは普通の星じゃない」と分かります。

ISS とは何か ── 上空 400 km の「人工の星」
ISS は 国際宇宙ステーション(International Space Station)。15 カ国(NASA・ESA・JAXA・カナダ宇宙庁 CSA・ロスコスモスなど)が共同で運用している、人が常駐する宇宙実験施設です。
大きさは サッカー場くらい(約 109 m × 73 m)、重さ 約 420 トン。1998 年に最初のモジュール「ザーリャ」が打ち上げられて以来、何十回もの組み立てミッションを経て 2011 年に完成しました。
人類が「24 時間 365 日、絶え間なく地球の外で暮らし続けて 25 年以上」という、地味だけど非常に長く続いている実験でもあります。今この瞬間も、上空のどこかを ISS が周回し、その中で人がご飯を食べたり眠ったりしています。
なぜ肉眼でこんなに明るく見えるのか
ISS が明るく見える理由は、シンプルに 太陽光を反射しているから です。月や金星と同じ原理で、ISS の 巨大なソーラーパネル(左右に張り出した翼のような構造)が太陽光をはね返して地表に届けます。
明るさは条件によって変動しますが、最大で 等級 -4 付近(金星と同じくらい)、まれにソーラーパネルの角度が「鏡」になる瞬間にはフラッシュのように -8 等級 まで跳ね上がります。これは満月(-12.7 等)を除けば、夜空で 太陽以外でもっとも明るくなり得る天体 です。
| 天体 | 実視等級 | 備考 |
|---|---|---|
| 月(満月) | -12.7 | 夜空の主役 |
| ISS(最大) | 約 -4(時に -8) | 金星と同等。フレア時に瞬間的に -8 まで |
| 金星 | 約 -4 | 「明けの明星」「宵の明星」 |
| 木星 | 約 -2 | 条件で変動 |
| シリウス | -1.46 | 全天で最も明るい恒星 |
| 北極星 | 1.98 | 都市部の限界クラス |
都会で星を見る方法 でも触れた「等級 -4 級の明るさ」が、夜空をすーっと動いていく ── 「あれは絶対に普通の星じゃない」と一発で分かる存在感です。
どこを飛んでいるのか ── 高度 408 km、90 分で地球一周
ISS の軌道はざっくり以下のとおり。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 軌道高度 | 約 400〜420 km の間で変動(平均約 408 km) |
| 速度 | 約 27,600 km/h(秒速 7.66 km) |
| 周回時間 | 約 90 分 |
| 1 日の周回数 | 約 16 周 |
| 軌道傾斜角 | 51.6°(緯度 -51.6° 〜 +51.6° の範囲を通過) |
スケール感を 1 光年って何キロ? の階段に当てはめてみると、ISS は約 408 km / 30 万 km = 1 光秒の 750 分の 1。光なら一瞬で届く距離です。地球の半径(約 6,371 km)と比べても、ISS は地表の すぐ上 を飛んでいることが分かります。
(この図の上端の約 59 倍向こう)
そして 90 分で 1 周ということは、地球を 1 日に 16 回 回っていて、ISS の中では「日の出と日の入り」が 16 回ずつ起きていることになります。クルーは 1 日に何度も朝日と夕日を見ているわけです。
軌道傾斜角 51.6° は、ロケットを打ち上げるバイコヌール宇宙基地(カザフスタン中央部、ロシアが租借、北緯 約 46°)から到達しやすい角度として歴史的に決まりました。打ち上げ地点の緯度より低い軌道傾斜角の軌道には効率よく入れないため、約 46° の射場からは 51.6° の軌道に乗せるのが合理的だったわけです。この傾斜角のおかげで、ISS は地球の有人地域の 90% 以上の上空を通過します ── 日本もしっかり通過範囲です。
今、誰が乗っているのか ── Expedition 74
ISS には常時 7 人前後の宇宙飛行士が滞在しています。各クルーは約 6 ヶ月で交代し、「Expedition(第〇次長期滞在)」と呼ばれる単位でカウントされていきます。
2026 年 5 月 現在は Expedition 74。2025 年 12 月 8 日に始まり、2026 年夏まで続く予定です。直近では SpaceX の Crew-12 が 2026 年 2 月 14 日に到着、NASA の Jessica Meir と Jack Hathaway、ESA の Sophie Adenot、ロスコスモスの Andrey Fedyaev が約 8 ヶ月の滞在に入っています。
JAXA の 日本人宇宙飛行士 のうち、直近では 油井亀美也 が Crew-11 で 2026 年 1 月 15 日に地球へ帰還しました。2026 年 5 月時点で ISS に日本人飛行士はいませんが、今後の Crew ローテーションで再び搭乗予定です。
ISS で何をしているのか ── 「きぼう」と微小重力実験
ISS の主役は 微小重力環境を活かした実験。地上ではほぼ起きない現象(液滴が球形を保つ、結晶が均質に成長する、燃焼が球形に広がるなど)を観察したり、無重力が人体に与える影響を継続調査したりしています。地球を外側から長時間観測できる「展望台」としての役割も大きく、海洋・気象・植生の観測データも継続的に蓄積されています。
日本の貢献として、ISS には 「きぼう」(JAXA Japanese Experiment Module) という日本実験棟が組み込まれています。船内実験室(PM)、船外実験プラットフォーム(EF)、補給室(ELM-PS)、ロボットアーム(JEMRMS)の 4 つで構成された ISS 最大級のモジュールです。
最近の話題としては、2026 年 2 月 3 日に「きぼう」から CubeSat(小型衛星)を 6 機 放出する運用が行われました。小型衛星を「ISS から手で放り投げる」感覚で軌道へ送り出せるのは「きぼう」の独特な役割で、世界中の大学や宇宙ベンチャーから利用申請があります。日本の宇宙開発が地味に存在感を残しているポイントの 1 つです。
自分で見つけるコツ ── Spot the Station と Heavens-Above
ISS を「次にいつ・どこに見えるか」を教えてくれる無料サービスが 2 つあります。
NASA「Spot the Station」(公式アプリ・Web、無料)
位置情報を登録すると、自宅の上空を ISS が通過する数分前にプッシュ通知してくれます。仰角・方位・通過時刻・継続時間がセットで届くので、計画なしでも「今夜、北西から南東に 4 分」と知って外に出るだけで観察できます。
公式: spotthestation.nasa.gov
Heavens-Above(Web、無料)
ISS 以外の衛星(Starlink トレイン、Hubble など)の通過予報も見られる老舗サイト。日本語表示にも対応しています。
公式: heavens-above.com
観察に良い時間帯: 夕方の日没後 1〜2 時間、または明け方の日の出前 1〜2 時間。地上は暗くなっているけれど、上空 400 km の ISS にはまだ太陽光が当たっているという「薄明の時間帯」がベスト。日中は太陽光に紛れて、深夜は地球の影に入って、それぞれ見えません。
見え方の特徴 ── 恒星と惑星の見分け方 の延長で言うと、ISS は次の 3 つで区別できます。
・瞬かない(惑星と同じく、大きな反射面なので大気の揺らぎが平均化される)
・じっと動かない(恒星)でも、ふらふら動く(惑星)でもなく、すーっと一定速度で空を横切る
・飛行機と違って、点滅しない(航空機は赤・緑のストロボがある)
3〜5 分かけて空の端から端へ動くので、慣れれば双眼鏡なしで楽しめます。動画撮影もスマホで十分可能で、長時間露光なら光跡として線になって写ります(スマホで星を綺麗に撮影する方法 の長秒撮影と相性が良い被写体です)。
2030 年でいったん引退 ── 次世代の民間ステーション
ISS は 2030 年に運用を終える計画です。約 25 年の間ずっと「絶え間なく人類が住んでいる空の家」だった ISS ですが、構造の老朽化もあり、計画的にお別れの段取りに入っています。
退役後の処分は 「ポイント・ネモ墜落」。SpaceX が NASA の発注で開発中の USDV(US Deorbit Vehicle) が ISS にドッキングし、太平洋の最も陸地から離れた「宇宙船の墓場」と呼ばれる地点へ ISS を誘導します。大気圏再突入で大部分は燃え尽き、残った破片はポイント・ネモの海底に沈みます。
その後の地球低軌道は 民間宇宙ステーション の時代に。
・Axiom Space(米)── 最初のモジュールを ISS に取り付け、後に分離して独立ステーション化(2028 年頃を目標)
・Starlab(米)── 単一打ち上げで上がる小型ステーション(2029 年予定)
・Orbital Reef(米、Blue Origin 主導)── 商業利用を主軸とした計画
・中国宇宙ステーション「天宮」(中国、独自運用中)
ISS と「天宮」の二極体制から、複数の民間ステーションが並ぶ「軌道上ホテル街」のような景色になっていきそうです。夜空に見える「動く星」が、ISS 一機から複数機へと増える日も近いかもしれません。
今夜の空を見上げると、人類がいる
最後に、これだけは伝えたい話を。
ISS が空を横切る数分間、その点の中には 本当に人がいます。今この瞬間も、ISS のクルーは時速 27,600 km で地球を回りながら、実験をしたり、地球の写真を撮ったり、寝ていたりします。
「いつもの夜空」と思っているものの中に、自分の人生で交わることはないかもしれない人たちが、確実にいる。Spot the Station の通知を受け取って、今夜 5 分間だけ外に出てみる ── それで世界がちょっと広く感じられるはずです。
古代の人が動く星を見たら、神様や霊だと思ったかもしれません。私たちはその同じ「動く星」の正体を、今や仕様まで知ることができる時代に生きています。北極星 のように「動かない星」と、ISS のように「すーっと動く星」が、同じ夜空に同居している ── これだけで星空はもっと立体的に見えてきます。
