真夜中に旅先のホテルから外に出て、地図アプリも使わず「あっちが北だ」と分かったら少しかっこいい。北極星はそのために、人類が何千年も使い続けてきた目印です。
派手な星ではありません。2等星なので、夜空で「いちばん明るい星」を探しても見つかりません。けれど、北斗七星かカシオペア座のどちらかさえ見つかれば、そこから5秒で辿れます。一度覚えれば、海外でも、停電のときでも、方角を見失うことはなくなります。

北極星とはどんな星なのか
北極星はこぐま座の尻尾の先にある2等星で、固有名はポラリス(Polaris)です。「北極星」というのは 「地球の自転軸の延長線上に、たまたま近い位置にある星」 という意味の役職名のようなもの。星そのものの名前ではありません。
明るさは2等級。1等星より暗いので、夜空でひときわ目立つわけではありません。「北極星 = 一番明るい星」だと思って探すと、シリウスや金星をつかんで方角を間違えます。北極星はあくまで「北の空にぽつんとあって、ほとんど動かない星」です。
距離は約 446 光年(Gaia DR3 2023 の最新値。以前広く使われた Hipparcos 値は約 430 光年)。タイプは黄白色の超巨星で、実はわずかに明るさが変わる脈動変光星(恒星の種類のひとつ)でもあります。とはいえ眺めている分には、いつもそこにある変わらない星です。
なぜ北極星は「北」を指すのか
夜空の星は、地球が自転している側から見ると、空全体が東から西へゆっくり回って見えます。けれど、自転軸の延長線上にある星だけは、ほとんど動きません。コマの軸の先端が回転していないのと同じ理屈です。
その「天の北極」と呼ばれるポイントから、現在の北極星はわずか 0.65 度ほどしか離れていません。月の直径が約 0.5 度なので、ほぼ満月1個分のずれです。肉眼で見れば「真北で止まっている星」として扱って問題ありません。
ここから派生する性質が2つあります。
方角としての「北」が分かる
北極星が見えている方向が、ほぼそのまま「真北」です。コンパスは磁気の北を指しますが、北極星は地理上の北をほぼ正確に指してくれます。
緯度も分かる
北極星の 高度(地平線からの角度)が、その場所の 北緯 とほぼ一致します。東京(北緯35度)なら地平線から35度の高さ、札幌(北緯43度)なら43度の高さ。大航海時代、船乗りたちはこの一致を使って自分の南北位置を計算していました。夜に北極星の高さで測れるこの角度は、昼なら棒の影の長さから求めることもできます。同じ角度に、2通りの測り方があるわけです。
| 観測地 | 北緯 | 北極星の高度(地平線から) |
|---|---|---|
| 北極点 | 90° | 90°(ほぼ天頂) |
| トロムソ(ノルウェー) | 約 70° | 約 70°(かなり高い) |
| 札幌 | 約 43° | 約 43° |
| 東京 | 約 35° | 約 35° |
| 那覇 | 約 26° | 約 26°(だいぶ低い) |
| ホノルル | 約 21° | 約 21° |
| シンガポール | 約 1° | 約 1°(ほぼ地平線スレスレ) |
| 赤道(キト・ナイロビ等) | 0° | 0°(地平線上にちょうど来る) |
| 南半球 | 南緯 | 地平線の下に隠れて見えない |
逆に言うと、初めての街でも北極星さえ見つければ 自分の南北位置をおおまかに当てられる ということ。スマホが圏外でも、夜空が見えれば「ここは大体何度ぐらい北」と分かる、というのが大航海時代のナビゲーションの根っこにあった発想です。
北極星は「ほぼ動かない星」。だから方角になり、高さから緯度も読める。夜空で「方位磁石」と「GPS の緯度」を兼ねる星です。
方法1: 北斗七星から辿る(春〜夏が見つけやすい)
もっとも有名なのが、北斗七星(おおぐま座の腰から尻尾にあたる7つの星)を使う方法です。
北斗七星はひしゃくの形をしています。ひしゃくの「すくう側」の縁にある2つの星 ── 北斗七星の「ポインター」と呼ばれる星 ── を見つけてください。この2星は、メラク(β)とドゥーベ(α)です。
あとは簡単。メラク → ドゥーベの方向に、2星の間隔の約5倍だけ伸ばす。その先に2等星がぽつんとあれば、それが北極星です。

注意点が1つだけ。北斗七星は北の空で1日かけて時計と反対回りに回るので、向きが季節と時刻で変わります。春の夜は頭上に、夏の宵は北西に、冬は北東の低空に倒れているように見えます。けれど 「ポインター2星 → 5倍」のルールはどの向きでも変わりません。ひしゃくがどう傾いても、伸ばす方向は常に北極星です。
方法2: カシオペアから辿る(秋〜冬が見つけやすい)
冬や、緯度が低い場所では、北斗七星が地平線の下に隠れてしまうことがあります。そんなときは カシオペア座 の出番です。
カシオペアは「W」または「M」の形に並んだ5つの星で構成されています。北斗七星のちょうど反対側、北極星を挟んで向かい合う位置にあります。
使い方は北斗七星よりほんの少し感覚的です。W の真ん中の星(γ Cas、ガンマ・カシオペア)から、W が「開いている側」の方向に、W の幅の約5倍だけ伸ばす。その先にあるのが北極星です。
覚え方としては、「W の谷が指している方向」と覚えるとシンプルです。Wの中央の鋭角が北極星のほうを向いています。

季節と時刻で「形」は回るけれど、方角は変わらない
初めて北の空を覚えるとき、戸惑いやすいポイントがここです。「夏に見たカシオペアと、冬に見たカシオペアが、なんだか違う形に見える」
でも実際に向きが変わっているだけで、形は変わっていません。北極星を中心に、北斗七星もカシオペアも、地球の自転に合わせて反時計回りに1日1周しているからです。1時間あたり15度回ります。(ここで変わるのはあくまで「向き」。形そのものは、数万年という長い年月をかけてゆっくり変わっていきます → 北斗七星の形は、ずっとこのままじゃない)
たとえば日本(中緯度)から見ると、午後9時頃の北の空はだいたいこんな印象です。
春(3〜5月): 北斗七星が頭の真上、カシオペアは北の低空
夏(6〜8月): 北斗七星は北西、カシオペアは北東
秋(9〜11月): 北斗七星は北の低空、カシオペアは頭の真上
冬(12〜2月): 北斗七星は北東、カシオペアは北西
北極星はいつも同じ場所、同じ高さ。周りの星座だけが回っていきます。だから北斗七星が見つからない季節はカシオペアを、カシオペアが見えなければ北斗七星を ── というふうに使い分けると、年間を通して必ず北を取り戻せます。
都会でも北極星は見えるのか
2等星なので、見える条件はオリオン座の三つ星や夏の大三角と同じくらいです。光害の強い都心では決して目立ちませんが、北の方向に視界が抜けている場所なら見つけられます(都会で見える星の限界等級についてはこちら)。
都会で探すときのコツは2つあります。
1. 街灯を背にする
暗順応(目が暗さに慣れる状態)が崩れていると2等星はかなり厳しくなります。1分でも街灯を視界から外して目を慣らしてから見上げてください。
2. 北斗七星かカシオペアの「全体の形」をまず認識する
北極星は地味なので単独で探すと迷子になります。先に大きな目印(北斗七星のひしゃく、カシオペアのW)を見つけて、そこから5倍の延長線でポンと辿るほうが速いです。
もし周囲のビルで北の空が完全に塞がっている場合は、無理せずスマホの星座アプリを併用しましょう。前回の記事「スマホで星を綺麗に撮影する方法」と組み合わせると、北極星を初めて自分のカメラで写すこともできます。
12000年後には北極星が変わる
もうひとつ、知っておくと宇宙の時間感覚が一段広がる話を。
地球の自転軸は完全に固定されているわけではなく、コマの軸がゆっくり首を振るのと同じように、約 25,800 年かけて1周する 歳差運動(さいさうんどう) をしています。つまり「天の北極」が空の上をゆっくり移動しているのです。
このため、北極星は永遠に北の星ではありません。歴史上、北極星は何度も入れ替わってきました。
| 時期 | 北極星 | その時代の出来事(参考) |
|---|---|---|
| 紀元前 4000 年頃 | トゥバン(りゅう座 α Dra)に近づく | シュメール初期・古代エジプト初期王朝期 |
| 紀元前 2700 年頃 | トゥバンが極に最接近 | ギザの大ピラミッド建造時代 |
| 紀元前 1100 年頃 | コカブ(こぐま座 β Kochab)に近い | 古代中国・ホメロス/古代ギリシャ初期 |
| 西暦 500 年頃 | ポラリスに少しずつ近づき始める | 飛鳥時代・東ローマ帝国 |
| 西暦 2026 年(現在) | ポラリス(こぐま座 α UMi、極から約 0.65°) | ── |
| 西暦 2100 年頃 | ポラリスが極に最接近(約 0.46°) | 21 世紀末 |
| 西暦 7500 年頃 | アルデラミン(ケフェウス座 α Alderamin) | 遥か未来 ── 現代から約 5500 年後 |
| 西暦 14000 年頃 | こと座のベガ(α Lyr、極から約 5°) | 夏の大三角の頂点が北の星に |
ピラミッドが建てられた時代、エジプトの夜空で「北」を示していたのはトゥバンでした。「現代の」北極星 = ポラリスは、実は 21 世紀末(2100 年頃)に極に最接近 したあと、ふたたびゆっくり離れていきます。そして 1 万年以上先には、夏の大三角の頂点のベガが北の星になる。夜空に絶対のものは何もない、というのが宇宙の時間スケールです。
ゲーム内で形を一度なぞっておくと早い
最後に、少しだけ自分のゲームの話を。
Gravity Weaver には30の星座がステージとして登場し、その中には おおぐま座(北斗七星) と カシオペア座、そして こぐま座(北極星を含む) も入っています。
形は遠目だと意外と覚えにくいものです。ゲーム内で星を結びながら一度なぞっておくと、実際に夜空を見上げたときに「あ、あれが北斗のひしゃくだ」「Wが立ち上がっている」と認識できるまでの時間が一気に縮みます。
方角は、覚えてしまえば一生使える知識です。今夜の北の空に、5秒だけ目をやってみてください。
