夜空を見上げて星座を探すとき、私たちは自然と「星と星を結ぶ線」を思い浮かべます。オリオン座の砂時計のような形、北斗七星のひしゃく、カシオペア座のW。星座といえば、星を線で結んだ図形を連想するのが普通です。

しかし、あの「線」は誰が決めたものなのでしょうか? 実は、星座の線には国際的な公式定義が存在しません。この記事では、星座の公式な定義とは何か、そしてなぜ「星座の線」が曖昧なのかを掘り下げていきます。

深い藍色の夜空に散らばる無数の星と、それらをうっすらと結ぶ細い光の線
「星と線で結ぶ」という発想は誰のものだろう。夜空には、線そのものは描かれていない。

IAU(国際天文学連合)が定めたもの

星座を公式に管理しているのは、1919年に設立されたIAU(International Astronomical Union / 国際天文学連合)です。IAUは天文学の国際的な取り決めを行う機関で、惑星の定義(冥王星が準惑星になった件もIAUの決定です)や天体の命名などを司っています。

1922年、IAUは全天を88の星座に分割することを決定しました。そして1930年、ベルギーの天文学者ウジェーヌ・デルポルトが各星座の境界線を確定しました。この境界線は赤経・赤緯の座標に基づく直線で構成されており、全天のどの点がどの星座に属するかが一意に決まっています。

IAUが公式に定めたのは「星座の境界」であり、「星座の形」ではありません。

つまり、「この星とこの星を線で結びなさい」という公式な定義は存在しないのです。

では、星座の「形」は誰が決めたのか

私たちがよく目にする星座の線画(アステリズム)は、さまざまな出典から来ています。代表的なものをいくつか挙げてみましょう。

H.A.レイの星座図:1952年に出版された『The Stars: A New Way to See Them(新しい星座の見方)』で提案された結線パターンです。レイは絵本『おさるのジョージ』の作者としても知られています。彼の星座図は、星座の名前から連想される形(例えば、しし座は本当にライオンに見える形)を重視しており、直感的でわかりやすいことから現在でも広く使われています。

しし座を構成する 9 つの星と、それらを結ぶラインで描かれたライオンの形
しし座の結線パターンの一例。鎌(前足から頭部)と胴体・尾の組み合わせで、ライオンらしい輪郭が浮かびます。 → しし座を星座図鑑で見る

プラネタリウムソフトの独自定義:Stellarium、Sky & Telescope、各国のプラネタリウム施設などは、それぞれ独自の結線パターンを使っています。Stellariumには複数の星座線セット(Western、Rey、Inuit、Chinese など)が収録されており、文化によって星の結び方がまったく異なることがわかります。

天文年鑑や教科書:国や出版社によって採用する結線パターンが異なります。日本の理科の教科書で習う星座の形と、アメリカの天文書に載っている形は、同じ星座でも微妙に違うことがあります。

星の「選び方」も公式ではない

線の引き方だけでなく、星座を構成する星の選び方にも統一された基準はありません。

例えば、オリオン座の場合。ベテルギウス(α星)やリゲル(β星)といった明るい星は必ず含まれますが、腰のベルト部分の周辺の暗い星をどこまで含めるかは資料によって異なります。三ツ星の下にある小三ツ星(オリオン大星雲のあたり)を結線に含める図もあれば、省略する図もあります。

北斗七星はおおぐま座の一部ですが、おおぐま座全体を描くときに前足や後足をどの星まで伸ばすかは、資料によってまちまちです(北斗七星から 北極星を辿る方法 も、結線パターンによって少し違って見えます)。星の明るさ(等級)の閾値も決まっておらず、「4等星まで使う」「主要な星だけ」といった基準は作成者の判断に委ねられています。

なぜ公式に定めないのか

考えてみれば、IAUが星座の結線パターンを公式に定めない理由もわかります。

第一に、天文学的には必要がないからです。天文学において星座とは「天球上の領域」であり、星を結ぶ線は科学的な意味を持ちません。天文学者が「オリオン座方向の天体」と言うとき、参照しているのはデルポルトの境界線であって、星座の形ではありません。

第二に、文化的多様性への配慮です。星座の見方は文化によって大きく異なります。西洋のオリオン座は日本では「鼓星」として知られていましたし、オーストラリア先住民は暗い星雲の形を星座として認識します。特定の結線パターンを「公式」とすることは、こうした多様な見方を否定することにもなりかねません。

西洋の星座/アステリズム日本での呼び名他文化での見立て
オリオン座鼓星(つづみぼし)中国: 参宿(しんしゅく)/古代エジプト: オシリスの姿
プレアデス星団(おうし座内)すばる/六連星(むつらぼし)マオリ族: マタリキ(新年の象徴)/ギリシャ: 七姉妹
北斗七星(おおぐま座の一部)七つの星/杓子(しゃくし)中国: 北斗/英: Big Dipper・The Plough
南十字星(みなみじゅうじ座)南十字ポリネシア: 航海の指針/オーストラリア国旗のモチーフ
天の川(銀河の帯)天の川(あまのがわ)中国: 銀河/フィンランド: 鳥の道/英: Milky Way
コールサック等の暗黒星雲──(特定の呼び名なし)オーストラリア先住民: エミュー(暗い領域を「星座」として認識)

つまり同じ夜空でも、線の引き方どころか「何を星座として認識するか」さえ文化で大きく違うわけです。西洋天文学が暗黒部分を「無」として扱う一方、オーストラリア先住民は暗い帯を主役として読み解く。「公式」を定めない判断は、こうした多文化の星空を等しく尊重するためでもあります。

第三に、実用上の問題です。肉眼で見える星の見え方は観測地点の光害や大気の状態によって変わります。都市部では3等星以下が見えないことも珍しくなく、同じ星座でも場所によって「見える形」は異なります。

ゲーム開発における星座データの課題

Gravity Weaverを開発するにあたり、この「公式の星座線が存在しない」という事実は現実的な課題となりました。

ゲーム内では30の星座をステージとして登場させています。各星座の星の位置はHIPPARCOSカタログ(欧州宇宙機関の位置天文衛星による高精度な星のカタログ)の赤経・赤緯データを元に配置していますが、「どの星をどう結ぶか」は自分で判断する必要がありました。なお、同じ星座でも構成する星は それぞれ違う距離(数百〜千光年単位) にあって、見た目の「形」はいろんな時代の光が重ねて届いた結果にすぎません。

参考にしたのは主にIAUの公式サイトに掲載されている星座図と、Stellariumの Western パターンです。しかし、この二つですら完全には一致しません。最終的には「一般的によく見かける形」と「ゲームとして見栄えがする形」のバランスで決定しました。

星座の線は「正解」がない世界です。同じ星座でも、時代、文化、目的によって異なる形で描かれてきました。

Gravity Weaverでは天文学的な正確さを尊重しつつも、ゲームとしての視認性や美しさも考慮した星座線を採用しています。星座図鑑ページでは各星座の天文学的な背景も詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

Gravity Weaver の 30 星座

ゲームに登場する 30 星座を、観測の都合で分類して並べます。各リンクから星座図鑑(赤経・赤緯、主要恒星、神話、ベスト観察時期)に飛べます。

黄道 12 星座(太陽の通り道)

北天の星座(北極星周辺・四季)

赤道〜南天の星座

これら 30 星座は、上に書いたとおり「公式の結線」を採用しているわけではなく、IAU の星座図と Stellarium の Western パターンを参考にしつつ、ゲームとして視認しやすい形に整えています。「結線が違うのは間違いではなく、別の流派」と考えていただけると嬉しいです。

まとめ

星座にまつわる意外な事実をまとめると:

夜空を見上げるとき、「この線が正解」という考えに囚われる必要はありません。古代の人々がそうしたように、あなた自身の星座を描いてみるのも素敵なことです。そして、もし重力で星を操る体験をしてみたくなったら、ぜひGravity Weaverを遊んでみてください。