「星って動いてるのに、星座の形はいつも一緒だね!」── 子供と北斗七星を見上げていて、そう言われました。言われてみればふしぎです。星が動いているなら、並びだって少しずつ崩れてもよさそうなのに、あの“ひしゃく”は毎年きちんと同じ形で昇ってくる。
でも、ほんとうは ── 今の形は「今この瞬間だけ」のものなんです。星座の形は、少しずつ変わっています。ただ、その変化があまりにゆっくりで、人間の一生どころか、文明の歴史くらいではほとんど気づけないだけ。今日は「星座の形は絶対じゃない」という話を、北斗七星を主役に、ふたつの角度からたどってみます。
そもそも、星はみんな動いている
夜空の星は「天に貼りついて動かないもの」に見えます。でも実際には、星はそれぞれ宇宙空間をすごい速さで移動しています。ただ、あまりに遠いので、地球から見た位置の変化がほんのわずかにしか感じられないだけ。
この「星が天球上を少しずつ移動して見える動き」を固有運動(こゆううんどう)と呼びます。最も固有運動が大きいのは「バーナード星」で、1年あたり約10.3秒角。満月の見かけの幅(約1,800秒角)を横切るのに、それでも約180年かかる計算です。気の遠くなるほどゆっくり。でも、何万年と積み重なれば、星の並びは確実に変わっていきます。
固有運動とは:星が天球(夜空)を横切って見える、わずかな移動のこと。星が近づく・遠ざかる動き(視線方向)とは別もので、何万年もかけて星座の形を少しずつ変えていく。
北斗七星には「兄弟星」と「よそ者」がいる
ここで面白いのが、北斗七星の7つの星です。
実はこのうち5つの星(メラク・フェクダ・メグレズ・アリオト・ミザール)は、同じ方向へ同じ速さで動く「兄弟星」。約80光年彼方で、同じガス雲から同じころに生まれ、いまも一緒に宇宙を旅しています。これを「おおぐま座運動星団」と呼びます。
ところが残る2つ、ひしゃくの先端のドゥーベ(約124光年)と、柄の端のアルカイド(約104光年)は、この兄弟ではありません。距離も違えば、動く方向も違う「よそ者」なのです。
つまり、5つはまとまって動き、2つは別々に動く。だから時間が経つと、ひしゃくの形はだんだん歪んでいきます。研究者の計算では、約5万年後には柄の向きや椀の端が変わり、約10万年後には「ひしゃく」というより「靴」に近い形になるそうです。今わたしたちが見ている美しいひしゃくは、ほんの“今だけ”の偶然の並びなのです。
それに、形が変わる理由は動きだけではありません。星にも寿命があり、重い星はいつか光を失っていきます(星の一生は「光る星と光らない星」もどうぞ)。動きと寿命 ── ふたつの理由で、星座の形は移ろっていきます。
もうひとつの変化 ──「星が星座をまたぐ」
星が動くなら、こんな疑問が浮かびます。「星が動いて、隣の星座のエリアに入っちゃうことってないの?」── あります。実際に、起きています。
星座は、1930年に国際天文学連合(IAU)が夜空を88のエリアに区切って決めたものです。ベルギーの天文学者デルポルトが、赤経・赤緯という天球の座標線に沿って境界を引きました(基準は1875年の座標)。この境界線は座標に固定されていて、星が動いても境界そのものは動きません。
だから、星が固有運動で動いていくと、いつか境界をまたいで隣の星座へ入ってしまう星が出てきます。「ろ・わし座(Rho Aquilae)」という星は、1992年に、わし座の境界を越えて、となりのいるか座へ移ってしまいました。名前は「わし座のρ星」なのに、今いる場所はいるか座。名前と住所が食い違ってしまった、史上初のケースです。
「星座の名前は変わらないの?」
子供がさらに聞いてきました。「星が動いて形が変わっちゃうなら、星座の名前は変わらないの?」
いい質問です。答えは「名前は変わらない」。さっきのろ・わし座を思い出してください。星はいるか座のエリアへ引っ越しましたが、名前は「わし座のρ星」のまま。星座そのものの名前も区画も、座標に固定された約束ごととして、ずっと残ります。
「じゃあさ」と子供。「星座のエリアの中にある星で、名前にあった形になるように、線を引き直すのかな?」
── これがまた鋭い。でも、ここがいちばん面白いところです。実は、そういう仕組みはありません。
理由は2つ。ひとつは、星をつなぐ「線」は公式には決められていないこと。IAU が決めたのは「エリア(境界)」だけで、ひしゃくや狩人の線は、星図を描く人たちの慣習にすぎません。実際、絵本作家の H.A. レイは、星座がもっと「名前らしく」見えるように、多くの線を独自に引き直しました。
もうひとつは、星座の絵は「特定の明るい星」と結びついていること。北斗七星は“あの7つの星”だからひしゃくなのであって、「おおぐま座のエリアにある適当な星で、ひしゃくに見えるように引き直す」わけではありません。だから定義の星が動いて形が崩れると、図は崩れたまま。星を入れ替えて“ひしゃくらしさ”を保ってくれる委員会は、どこにもないのです。
つまり ── 名前と区画は残るけれど、絵は崩れていく。
3000年先でも、ほとんど変わらなかった
これを自分の目でも確かめたくて、プラネタリウムソフト「Stellarium」を開いてみました。ところが日付は西暦4999年まで ── つまり約3000年先までしか設定できません。3000年といえば、古代文明の時代から今日までに匹敵するほどの長い時間です。それなのに、その未来の北斗七星を見ても、形の変化はほとんど分かりませんでした。
それくらい、星の動きはゆっくりなのです。人の歴史をまるごと足しても足りないほどの時間をかけて、ようやく目に見えて形が変わっていく。「もっと時間軸を広げないと、宇宙の動きはとらえられないんだな」と、画面の前であらためて実感しました。
そこで、もっと遠い未来まで見せてくれる動画を探しました。オハイオ州立大学が公開している北斗七星の固有運動アニメーション(紀元前10万年〜紀元10万年)や、アメリカ自然史博物館(AMNH)の動画です。実際に見てみると ── 10万年後の北斗七星は、たしかに「ひしゃく」ではなく「靴」のような形に崩れていました。子供と思わず「ほんとだ、靴だ!」と笑ってしまいました。何万年もの時間を数十秒に早送りすると、よそ者のドゥーベとアルカイドが、兄弟星たちから離れていく様子がよく分かります。
それでも、星座は描き替えられていく
では、はるか未来にひしゃくが崩れた夜空を、人はどう見るのでしょう。
大昔、人びとは夜空の星に勝手に線を結び、そこにクマや狩人やひしゃくを見いだして、物語を紡いできました。星座とは、もともと「そのとき空に見えた形」から人間が作り出した文化そのものです(世界の文化がそれぞれ違う星座を描いてきた話は「星座を形作る星とライン」もどうぞ)。
だとすれば、何万年も先、ひしゃくがすっかり崩れた夜空を見上げる誰かは ── その新しい並びに、また新しい線を引き、見たこともない星座をつくり、まだ生まれていない神話を語るのではないでしょうか。わたしたちの北斗七星が永遠でないのと同じように、その人たちの星座も、いつか移ろっていく。星空は、そうやってずっと描き替えられてきたし、これからも描き替えられていくのだと思います。
ゲームの中で、星をつないで星座を描く
少しだけ自分たちのゲームの話を。Gravity Weaver では、重力を描いて光を導き、星をひとつずつ結んで星座を完成させていきます。画面の中では星はじっと待っていてくれますが、本物の夜空では、その一粒一粒が今もそれぞれの方向へ旅の途中。「星座の形は永遠じゃない」と知ってから空を見上げると、いつものひしゃくが少し違って見えてきます。
今夜あなたが見上げる北斗七星は、この時代のわたしたちだけが見られる“ひと時代限り”の形。子供と一緒に見上げたあのひしゃくを、ちょっと大切に覚えておきたくなりました。
