白状すると、これは私自身の思い込みの話です。宇宙空間には空気がない。空気がない=真空。真空=何もない——ずっとそう思っていました。このブログで宇宙の記事を書くようになって、ふと確かめたくなったのです。宇宙って、本当に「何もない」のか?
答えは、気持ちよく裏切られました。宇宙は空っぽではありません。薄い。とんでもなく薄い。でも、確かに満ちている。今回はその「真空の中身」を、親子で数えられる形にしてみます。
まず、いま吸っている空気を数える
比較の物差しとして、手元の空気から。いまあなたが吸った空気は、角砂糖ひとつ分(1cm³)の中に分子が約2,700京個います。京は兆の1万倍。2.7×1019 個——数字にすると実感が消えるほどの過密です。私たちは分子のぎゅうぎゅう詰めの底で暮らしています。
宇宙の「スカスカ」を数える
| 場所 | 1cm³ あたりの粒子 |
|---|---|
| 地上の空気 | 約2,700京個(2.7×1019) |
| 地球のまわりの宇宙空間 | 数個〜10個ほど(太陽風の陽子や電子) |
| 星と星のあいだ(星間空間) | 平均するとおよそ1個 |
| 銀河と銀河のあいだ | さらに桁違いに薄い |
地球のまわりの宇宙空間には、太陽から絶えず吹き出しているプラズマの流れ——太陽風——が流れていて、1cm³ に数個の陽子や電子がいます。星と星のあいだまで行くと平均およそ1個。地上の実験室でどれだけ頑張っても作れない「上等な真空」です。それでも、ゼロではない。角砂糖ひとつ分の空間を切り取れば、たいてい何かしらの粒が入っています。
そして、どこへ行っても「光」がいる
粒子よりも驚いたのはこちらです。宇宙のどの1cm³ を切り取っても、そこには約411個の光子(光の粒)が飛び交っています。星の光ではありません。宇宙マイクロ波背景放射——約138億年前、ビッグバンの名残として宇宙に放たれ、いまも全宇宙を満たし続けている光です。
つまり「宇宙でいちばんどこにでもあるもの」は、実は光。どんなに星から遠く離れた真っ暗な場所でも、宇宙誕生のなごりの光だけは必ずそこにいます。真空は、暗くて何もない場所ではなく、古い光で満たされた場所でした。
まだある。幽霊のような粒と、見えない場
ニュートリノ ── ビッグバンの名残のニュートリノも宇宙を満たしています(1cm³ に数百個・温度約1.95K)。ほとんど何ともぶつからない「幽霊粒子」で、いまこの瞬間もあなたの体を大量に素通りしています
磁場 ── 太陽の磁場は太陽系の果てまで広がり、宇宙空間そのものに「場」が張られています。目に見えなくても、方位磁石が動くのと同じ実在です
塵 ── 彗星や小惑星がまき散らした細かい粒。これが地球に飛び込んでくると流れ星になります。流れ星が見えること自体が「宇宙は空っぽじゃない」証拠だったわけです
「真空」の本当の意味
調べてわかったのは、科学の言葉としての真空は「何もない空間」ではなく、「圧力がきわめて低い状態」を指すということでした。完全に何もない空間は、宇宙のどこを探しても見つかっていません。
さらに言うと、現代物理学では、仮にすべての粒子と光を取り除けたとしても、空間そのものが微小な「ゆらぎ」を持ち、エネルギーが完全なゼロにはならないと考えられています。「無」とは何か——これは今も物理学の最前線のテーマです。子どもの「なんで?」と同じ問いを、世界中の物理学者がまだ追いかけています。
まとめ
• 宇宙はほぼ真空だが、空っぽではない。空気の1cm³=約2,700京個に対し、宇宙は数個〜1個。桁違いに薄いだけ
• 地球のまわりには太陽風のプラズマが常に流れている
• 宇宙のどこでも1cm³ に約411個の光子——ビッグバンの名残の光が満ちている
• ニュートリノ・磁場・塵も宇宙を満たす住人。流れ星はその証拠
• 真空とは「何もない」ではなく「圧力がきわめて低い」。完全な「無」は宇宙のどこにもない
「宇宙は空っぽ」という思い込みがひとつ剥がれると、次の疑問が自然に湧いてきます——スカスカの宇宙がすぐそこにあるのに、地球の空気はなぜ宇宙に吸い出されずに残っているのか? この話は、次の記事で。
