今日、こんなニュースの見出しを目にしました。「誕生直後の極小銀河を観測 ― 宇宙初期、130億年前」。読みながら、ふと立ち止まりました。「誕生直後」と言ったって、それは何の時計で測った "直後" なんだろう? ― と。

少しほどいてみると、この見出しの裏には、私たちの日常感覚ではちょっと収まらない時間のスケールが二段重ねで畳み込まれていることに気付きます。

広大な星々の海のなかに、ぽつりと浮かぶ遠方の銀河。淡いピンクと青の光が、極めて遠く・古い宇宙からの光であることを示している
無数の星々の向こうに、ひとつぽつりと浮かぶ淡い銀河。これが今回観測されたような「遠方の極小銀河」のイメージ。

「誕生直後」の二段構え

COSMIC TIMELINE
「130億年前」を解きほぐすと

ビッグバン: 約138億年前
この銀河が生まれた時期: ビッグバンの約8億年後(= 130億年前)
観測された光: その銀河が生まれて間もない頃に放った光
光が宇宙を旅した時間: 約130億年

ビッグバンが起きたのは今から約 138億年前。観測された光が銀河を離れたのは、そこから 約8億年後です。138 − 8 = 130、つまり「130億年前」の光ということになります。

ここで「誕生直後」という言葉は、二つの時計を同時に指しています。

一つは 宇宙そのものの時計。138億歳の宇宙にとって、8億歳というのは生まれて数%しか経っていない時期 ― 人間で言えば赤ちゃんが言葉を覚え始める前の数か月といった具合のスケール感です。

もう一つは 銀河自身の時計。最初の星が生まれたのがビッグバン後 1〜2億年と考えられているので、宇宙が8億歳の頃の銀河は、生まれて数千万〜数億年というレベル。これは銀河としては本当に若い ― 生後間もない、と呼んで差し支えない年齢です。

「誕生直後の銀河」という言葉は、この二つを同時に言っています。宇宙としても若く、銀河としても若い。両方の時計で "直後" と言える、奇跡的に古い光なんです。

ビッグバンから数億年後の初期宇宙のイメージ。赤・橙・桃色に光る原始ガスの雲のなかで、最初の銀河たちが明るく形作られ始めている
ビッグバンから数億年後 ── 原始のガスのなかから、最初の銀河たちが芽吹いていく頃の宇宙のイメージ。

光は130億年旅した

その光が銀河を離れてから、今この記事を書いている瞬間まで、休まず宇宙を進み続けてきました。距離としては 130億光年分 の道のり。地球が太陽の周りを130億回まわる間、ずっと光は走り続けていたことになります。

太陽の光が地球に届くのは約8分。お隣のアルファ・ケンタウリ星系からの光は4年強。天の川銀河の反対側からは10万年。これらと比べてもまるで桁が違う、桁が違うを通り越してもはや別の単位の時間です。

そしてこの光が地球に届いた頃、人類は望遠鏡を空に向け、その微かな光を捉えて「これは130億年前の銀河だ」と読み解く文明を持っていた。タイミングがほんの少しずれていれば、誰の眼にも触れずに地球の横を通り過ぎていたはずの光です。

"今" その銀河はもうそこにいない

もう一つ、面白いねじれがあります。光が130億年かけて旅している間、宇宙はずっと膨張し続けてきました。光が出発した時点と今では、その銀河が "ある場所" はまったく違う位置に動いている。

光が出発した時点の距離: 比較的近かった(当時の宇宙はまだ今よりずっと小さい)

光が走破した距離: 約130億光年

"今"その銀河がいる位置までの距離: 推定 約280億光年(宇宙膨張で光の旅路よりずっと遠くへ)

つまり私たちが見ているのは 「あった場所」の「あった姿」 であって、"いま" の姿は永遠に見ることができません。仮にその銀河に今すぐ光速で何かを送り出しても、宇宙の膨張に追いつけずもう届かない可能性が高い。私たちと「観測可能な宇宙の果て」の銀河とは、すでに因果的に切り離されつつあります。

私たちが見ているのは「宇宙の化石」

そもそも、いま観測した極小銀河は 今も存在しているとは限りません。130億年あれば、銀河は他の銀河と何度も合体・吸収を繰り返してまったく別の姿になっている可能性が高い。ひょっとすると、その血を引いた銀河は今もどこかで星を作り続けているかもしれないし、もうばらばらになって星々が散らばっているかもしれない。

私たちが望遠鏡で見ているのは、銀河そのものというよりは 「銀河の化石写真」。考古学者が地層から太古の化石を掘り出すように、天文学者は遠くの空から太古の光を掘り出す。望遠鏡は同時にタイムマシンでもあり、化石採集の道具でもあります。

遠くを見ることは、過去を見ること。

近くの星 = 数百〜数千年前の姿、隣の銀河 = 250万年前の姿、宇宙の果ての銀河 = 130億年前の姿。距離と時間がそのまま結びついているのが、宇宙という不思議な空間です。

Gravity Weaver を作りながら感じるスケールの差

Gravity Weaverを作っていて毎日触れているのは、画面の中の小さな宇宙です。プレイヤーが指で重力場を描き、太陽のかけらを数秒でゴール惑星まで誘導する。スケールにすればせいぜい数百ピクセル、時間にすれば数秒の出来事です。

でも、ゲームの中で「重力」という言葉を使うたびに、その背後にあるリアルな宇宙のスケールを思い出します。画面の中ではボタン一つでBlack Holeを生み出せますが、本物のブラックホールが一つできるためには、太陽の何十倍もの質量の星が一生分の重力崩壊を経る必要がある。引力線で軌道を曲げるのは一瞬ですが、本物のスイングバイは何年もかけて惑星と探査機が踊るような運動です。

そして今回のニュースのように、130億年前の銀河の光が一筋届くだけで、「宇宙の半分以上の歴史」が一気に視野に入ってくる。同じ "重力" や "光" という言葉でも、人間が遊ぶスケールと宇宙が動くスケールの間には、桁外れの差があるのだと、こういうニュースを読むたびに思い知らされます。

Gravity Weaverで描いているのはあくまでも比喩的な宇宙です。けれど、その向こう側には本物の宇宙があって、本物の宇宙では「誕生直後の銀河」が今も新しく見つかり続けている。ゲームを入り口に、その本物のスケールに少しでも触れてもらえたら、開発者として一番嬉しい瞬間です。

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