9月に入って、朝晩の空気が変わってきました。息子がふと言いました。
「そろそろ涼しくなってきたし、もうすぐ秋だね」「暦の上では、もうとっくに秋だよ」「秋といえば、お月見だよね」「中秋の名月、今年はいつだろう。望遠鏡もあるし、ちゃんと眺めたいね」
そこで国立天文台のページで調べてみたら、ひとつ引っかかることが出てきました。今年の中秋の名月は9月25日。ところが満月は9月27日——名月なのに、満月じゃない? お月見の月は、まんまるじゃないと格好がつかない気がします。なぜこんなことが起きるのか、親子で追いかけてみました。

中秋の名月とは──「秋のど真ん中」の月
中秋の名月は、旧暦8月15日の夜の月のことです。旧暦では七月・八月・九月が秋。その真ん中の八月の、さらに真ん中の十五日。つまり「秋のど真ん中の日の月」という意味で「中秋」と呼びます。似た言葉に「仲秋」がありますが、こちらは八月というひと月まるごとを指す言葉なので、「仲秋の名月」とは言わないのだそうです。
この月を眺める習慣は、9世紀ごろに中国から伝わったとされ、日本では団子や芋をお供えする風習と結びついて「芋名月」の呼び名もあります。中国では中秋節、韓国では秋夕(チュソク)と、東アジアで広く祝われる行事です。
旧暦は月の満ち欠けを基準にした暦なので、伝統的七夕と同じく、新暦の日付は毎年ずれます。中秋の名月が来るのは、早い年で9月7日ごろ、遅い年で10月8日ごろ。今年は次のように決まりました。
| 日付 | できごと |
|---|---|
| 9月11日(金) | 朔(新月)12時27分 → この日が旧暦8月1日 |
| 9月25日(金) | 旧暦8月15日 = 中秋の名月(東京18時の月齢 14.2) |
| 9月27日(日) | 望(満月)1時49分(月齢 15.6) |
| 10月23日(金) | 十三夜(旧暦9月13日・後の月) |
なぜ名月が満月じゃないのか
ここが今日の本題です。答えを先に言うと、名月は「暦のルール」で決まる日、満月は「天体の配置」で決まる瞬間だから。決め方がまったく別なので、一致するほうがむしろ幸運なのです。
旧暦のルールでは、新月(朔)の瞬間を含む日を「1日」と決めます。月齢は朔の瞬間を 0.0 として数える日数なので、1日は「月齢 0.0 になる瞬間を含む日」、15日はそこから14日後、つまり「月齢 14.0 になる瞬間を含む日」です。
いっぽう満月(望)は、月が太陽の反対側に来る瞬間です。新月から満月まで、月は満ち欠けひと巡り(約29.5日)の半分を進むので、平均すると約14.8日かかります。ここで、もう気づいた方もいるかもしれません。
名月 = 月齢 14.0 を含む日
満月 = 月齢 およそ 14.8 の瞬間
→ 満月のほうが、そもそも1日近く後ろにある。名月の夜の月は、平均的には「満月の一歩手前」
これだけなら「名月は満月の前日か当日」ですみます。ところが今年は2日もずれています。もうひとつの原因は、新月から満月までの日数が毎回ちがうことです。国立天文台の解説によると、その日数は13.9日から15.6日まで揺れます。月の軌道は円ではなく楕円で、地球に近いところでは速く、遠いところではゆっくり進むためです。同じ「半周」でも、速い区間を通る回と遅い区間を通る回で、かかる日数が変わってしまうのです。
今年の場合、朔は9月11日の12時27分、望は9月27日の1時49分。引き算すると約15.6日——揺れ幅のほぼ上限です。新月から満月までがいちばんゆっくりだった年に当たった、と言えます。そこに「朔がお昼すぎだったので、月齢 14.0 の瞬間も25日のお昼すぎ」という日付の区切りの事情が重なり、名月と満月が2日離れることになりました。
2日ずれるのは、少々珍しい
国立天文台のトピックスには、名月と満月が2日ずれることについて「少々珍しい」と書かれています。国立天文台の一覧を見ると、前回2日ずれたのは2017年、次は2043年。名月の夜の月は、多くの年で「当日の満月」か「翌日が満月=十六夜」のどちらかで、2日ずれはたまにしか起きません。
逆に、満月が名月より前に来ることはさらに珍しくて、1600年から2199年までの600年間で1942年と2127年の2回だけだそうです。「満月のほうが後ろに来やすい」という上の理屈が、そのまま数字に表れています。
「じゃあ、ぴったり満月の年は?」と息子。直近では2021年・2022年・2023年が3年連続で名月=満月でした。私たちが「中秋の名月はまんまる」と思い込んでいたのは、この3年間の印象が強かったからかもしれません。次に一致するのは2032年。少し先です。
十六夜──「ためらう月」を月の出で実感する
ここで、昔の人のネーミングセンスに感心する話をひとつ。旧暦15日の翌日、16日の月は十六夜(いざよい)と呼ばれます。「いざよう」は「ためらう・ぐずぐずする」という意味の古い言葉。十五夜より月の出が遅くなるので、「今日はなかなか出てこないなあ」と月がためらっているように見えた、というのが語源です。その翌日は立待月(たちまちづき)=立って待つうちに出る月、さらに居待月(いまちづき)=座って待つ月、寝待月(ねまちづき)=寝て待つ月と続きます。
本当にそんなに遅れるのか、東京の月の出時刻を国立天文台の「こよみの計算」で引いてみました。
| 日付 | 呼び名 | 東京の月の出 |
|---|---|---|
| 9月25日 | 十五夜(中秋の名月) | 16時43分 |
| 9月26日 | 十六夜 | 17時08分 |
| 9月27日 | 立待月(この日の未明1時49分が満月) | 17時35分 |
| 9月28日 | 居待月 | 18時05分 |
毎日25〜30分ずつ遅くなっています。十五夜は日の入り(17時34分)より前に月が出ているのに、十六夜は日が沈んでから、立待月は暗くなってから、居待月は18時をすぎてから。月の出を待つ時間が日ごとに延びていくのが、名前の順番どおりに数字に出ていて、親子で「ほんとだ」と声が出ました。時計もカレンダーもない時代に、月の出の遅れを体で覚えて名前をつけた人たちがいた、ということです。
ちなみに今年の満月の瞬間(27日1時49分)は、26日の夜に月が空にある間に訪れます。「まんまるの瞬間」を見たいなら、十六夜の夜に少し夜更かしするのが正解です。
9月25日の観察ガイド(東京)
月の出 16時43分(ほぼ真東)/日の入り 17時34分
南中 22時38分・高度 50.8度(空の真ん中よりやや高いところ)
月の入り 翌26日 4時43分
おすすめは2回見ることです。1回目は夕方。日が沈む前から東の低い空に月が出ているので、夕焼け空に浮かぶ大きな月が見られます。低い月が大きく見えるのは目の錯覚ですが、お月見の絵に描かれる月は、たいていこの時間帯の月です。2回目は寝る前。22時すぎには南の空高くに上がっていて、小さく、しかしずっと明るく澄んだ月になります。「同じ月なのに、こんなに印象が変わるんだ」と気づくのは、子どもにとっていい経験だと思います。
そして望遠鏡や双眼鏡をお持ちの方へ、ひとつ正直な話を。満月に近い月は、望遠鏡で見るといちばん面白くない月です。太陽が真正面から当たっていて影がなく、クレーターの凸凹が消えてしまうからです。クレーターがいちばん立体的に見えるのは、光と影の境目(欠け際)。25日の月は月齢 14.2 でまだわずかに欠けているので、東側の縁の欠け際を狙うのがコツです。もっとしっかり見たいなら、10月23日の十三夜がおすすめ。名月の少し前の形の月(月齢12前後)は欠け際が長く、肉眼でも十分きれいで、日本では十五夜とセットで愛でてきた月です。片方だけ見るのを「片見月」と言って縁起が悪いとされたそうなので、両方見る言い訳にもなります。
おまけ──27日の夜は、満月の隣に土星
もうひとつ、今年だけの見どころがあります。満月を迎えた9月27日の夜、月のすぐ隣に土星が並びます。東京で21時ごろの月と土星の間隔は約6度。腕を伸ばして握った拳(約10度)に収まる近さです。
土星はちょうど10月4日に衝(太陽の反対側に来て、1年でいちばん明るく見頃になる位置)を迎える直前なので、明るさも十分。まぶしい満月のそばでも、またたかずにじっと光る星がひとつあれば、それが土星です。月を目印にして土星を見つけられる、年に何度もないチャンスです。
我が家では、この土星が今年のキャンプの本命です。夏に望遠鏡で初めて月を見たとき、息子は「輪っかのある星も見たい」と言っていました。名月の翌々日に、満月の隣で土星を探す。カレンダーに書き込みました。
まとめ
• 2026年の中秋の名月は9月25日(金)、満月は9月27日(日)1時49分
• 名月は「旧暦8月15日」という暦のルールで決まる日。満月は月と太陽の位置という天体の配置で決まる瞬間。別物なのでずれるのが普通
• 15日は「月齢14.0を含む日」、満月は平均「月齢14.8」。しかも新月→満月は13.9〜15.6日と揺れる(楕円軌道)。今年は約15.6日で上限ぎりぎり
• 2日ずれは2017年以来、次は2043年。満月が名月より前に来るのは600年で2回だけ
• 十六夜=「ためらう月」。東京の月の出は 16:43 → 17:08 → 17:35 → 18:05 と毎日25〜30分遅れる
• 25日は夕方と寝る前の2回見る。27日夜は満月の隣に土星。望遠鏡なら10月23日の十三夜も
「名月なのに満月じゃない」は、暦のバグではなく、月の軌道が楕円であることの証拠でした。今年のお月見では、まんまるより少し手前の月を見上げながら、「満月はあと2日先なんだよ」と、ちょっと得意になって話せそうです。
