「七夕」と聞くと、織姫(おりひめ)と彦星(ひこぼし)が、一年に一度だけ会える――という物語を思い浮かべます。子どものころ、短冊に願いを書いた人も多いはず。でも、その織姫と彦星って、実際の夜空ではどの星なんだろう? どんな星なんだろう? 天文素人の親子で、あらためて調べてみました。
織姫と彦星の正体 ── ベガとアルタイル
織姫と彦星は、空想の存在ではなく、夜空に実在する2つの明るい星です。織姫星はこと座のベガ、彦星はわし座のアルタイル(国立天文台)。どちらも夏の夜空で目立つ一等星で、もう一つの明るい星デネブとあわせて「夏の大三角」をつくります。空での見つけ方はそちらの記事にゆずって、ここでは「2つがどんな星なのか」を見ていきます。
| 星 | 星座 | 明るさ(約) | 距離(約) | 色 |
|---|---|---|---|---|
| 織姫=ベガ | こと座 | 0.0 等 | 25 光年 | 青白 |
| 彦星=アルタイル | わし座 | 0.8 等 | 17 光年 | 白 |
2つとも、太陽と同じく自分で光る「主系列星」の仲間です(恒星の種類は光る星と光らない星でも触れました)。色はベガが青白く、アルタイルは白っぽい。どちらも表面温度が太陽より高い、若くて熱い星です。地球からの距離はベガが約25光年、アルタイルが約17光年。宇宙のスケールでいえば、どちらも「ご近所」の星といえます。
「一年に一度会える」を、天文で見ると
物語のいちばんの見せ場は、なんといっても「一年に一度の再会」。でも天文の目で見ると、ここは半分はウソ、半分はホントです。
まずウソのほう。2つの星が近づいて会う、ということは起きません。ベガとアルタイルの間は約14.4光年。光の速さで進んでも約14年半かかる距離です(国立天文台)。二つの星はこの距離を保ったままで、夜空での位置関係もほぼ一定。7月7日だけ近づく、というようなことは起きません。物語のように一年で会いに行ける距離では、まったくないのです。
では「一年に一度」はまるきりのお話かというと、そうでもありません。ここがホントのほう。地球は太陽のまわりを一年かけて一周(公転)しているので、夜に見える星座は季節とともにゆっくり入れ替わります。ベガとアルタイルは「夏の星」。冬の夜には姿を見せず、毎年夏になると二つそろって夜空に戻ってきます。つまり「一年に一度会える」は、二つの星が近づくことではなく、地球の公転のリズムで、一年に一度この季節だけ二つが夜空にそろうこと――そう読み替えると、ぴたりと当てはまります。
「近づいて会う」 → 天文的にはウソ。二つは約14.4光年離れたままで、動いて出会うことはない。
「一年に一度」 → ホント。地球の公転で、夏のあいだだけ二つの星がそろって夜空に現れる。
どんな星? ── 自転と歳差の「へぇ」
調べていて思わず「へぇ」と声が出たのが、2つの星それぞれのクセです。
彦星のアルタイルは、とんでもない高速自転の星。なんと約9時間で一回転します(地球は24時間、太陽は約25日かけて一回転)。あまりに速く回るので遠心力で赤道方向にふくらみ、きれいな球ではなく、横に膨らんだミカンのような扁平な形になっています。極方向の差し渡しは、赤道方向より2割以上も短いと観測されています。肉眼では点にしか見えない星が、実はぐにゃりと潰れて猛烈に回っている――と思うと、見え方が少し変わります。
織姫のベガには、別の面白い肩書きがあります。地球の地軸はコマのようにゆっくり首を振る運動(歳差)をしていて、「北の基準」になる星が、長い時間をかけて移り変わっていきます。いまの北極星はこぐま座のポラリスですが、紀元前1万2千年ごろの北極星はベガでした。そして歳差がひとめぐりする西暦1万3700年ごろ、ベガはふたたび北極星になると計算されています(北極星の話は北極星の見つけ方に)。織姫星は、はるか昔と、はるか未来の「北の星」でもあるのです。
実は7月7日は、星が見えにくい ── 「伝統的七夕」
最後に、いちばん実用的な話を。せっかくの七夕ですが、新暦の7月7日は、たいてい梅雨のさなか。雲が多くて、織姫も彦星もなかなか見られません。じつは、もともとの七夕は今の暦の7月7日ではなく、旧暦(太陰太陽暦)の7月7日の行事でした。
そこで国立天文台は2001年から、旧暦の七夕にあたる日を「伝統的七夕」として案内しています。2026年の伝統的七夕は8月19日。このころには梅雨も明けて夏空が広がり、天の川と一緒に織姫・彦星を眺める絶好の季節です。7月7日に曇って見えなくても、がっかりしないでください。本当の見頃は、夏休みの8月のほうかもしれません。
夜空を動かしているもの
私たちのゲーム Gravity Weaver は、重力を描いて天体の軌道をあやつるパズルです。星の「動き」をずっと触っていると、七夕の物語もちょっと違って見えてきます。織姫と彦星を一年に一度めぐり合わせているのは、星の意思でも、カササギの橋でもなく、地球が太陽を回りつづける軌道のリズム。
今年の七夕に――あるいは8月の伝統的七夕に――夜空を見上げたら、頭上の二つの星だけでなく、足もとの地球がいまも静かに動きつづけていることも、少しだけ思い出してみてください。一年に一度の再会を演出しているのは、ほかでもない私たちの足場なのですから。
