今朝の通勤中、スマホの天気予報アプリで「今日明日は金星と木星が接近している」という記事を目にしました。夜空の星のなかでも飛びぬけて明るい金星と木星。これは帰り道に探してみよう ── そう思って、一日の仕事を進めていました。
トラブルもあって、オフィスを出たのは22時30分。それでも、忘れていません。駅までの道すがら、何度も夜空を見上げて星を探しました。けれど新宿の空は、雲のせいか、高層ビルのせいか、星はひとつも見つけられないまま、駅に着いてしまいました。
少しがっかり。でも ── 見えなくても、ふたつの星は確かにそこにあります。しかも、私たちには“ぴったり並んで”見えるその金星と木星、ふたつの間には実は 7億km以上もの奥行き があるのです(金星は地球から約1.8億km、木星は約9億km)。今日は、この「見かけの接近」の正体を、素人目線でたどってみます。
そもそも「接近」って、本当に近づいているの?
ニュースで「金星と木星が大接近」と聞くと、宇宙のどこかでふたつの惑星がぐっと寄り添っている ── そんな絵を想像してしまいます。でも、これはちょっとした“目のトリック”です。
金星も木星も、地球から見てたまたま同じ方向に重なって見えているだけ。実際の宇宙では、ふたつはまったく近づいていません。天文の世界では、地球から見て2つの天体が同じ方向に並ぶことを「合(ごう)」と呼びます。今回の“大接近”の正体は、この合なのです。
では、どれくらい近づいて見えるのか。2026年6月9日ごろの最接近で、ふたつの見かけの間隔(離角)は約1.6度。満月の見かけの大きさが約0.5度なので、ちょうど満月3個分くらいの隙間に、空でいちばん明るい星とふたつめに明るい星が並ぶ、という具合です。腕をいっぱいに伸ばして、人差し指1本ぶんくらいの幅 ── そう思うと、かなり近い眺めです。
実は、7億km以上も離れている
ここが今日いちばん伝えたいところ。空では指1本ぶんに並んで見えても、本当の距離はまるで違います。
このころ、金星は地球から約1億8000万kmのところにいます。いっぽう木星は、ずっと外側をまわる大きな惑星で、地球から約9億km。木星は金星の5倍も遠くにいるのです。なのに、なぜぴったり並んで見えるのか ── それは上の図のように、地球から伸びる視線の上に、近い金星とずっと遠い木星が“たまたま一直線”に乗っているから。奥行きは段違いでも、向いている方向がほぼ同じだと、空では隣どうしに見えてしまうのです。
「接近」と聞くと近づいて見えるけれど、実際は地球から見た方向がそろっただけ(=合)。金星は約1.8億km、木星は約9億km。同じ方向・まるで違う奥行き、というのが本当のところです。
このカラクリは、実は毎日少しずつ確かめられます。国立天文台も「6月のあいだ毎日2つの惑星を見ていると、近づいて、そして離れていく様子がわかる」と紹介しています。地球に近い金星のほうが、空での動きが速い。並び方が日ごとに変わっていくのを追うと、惑星が“動く星”であることを、自分の目で実感できます。
なぜ、こんなに明るく見えるの?
金星と木星は、太陽や他の星の光を受けて反射しているだけで、自分から光っているわけではありません(「光る星と光らない星」でも書いたとおり、惑星は“光らない星”です)。それでも、夜空でとびきり目立ちます。
明るさを表す「等級」でいうと、今回の金星はマイナス4等、木星はマイナス1.9等ほど。数字が小さい(マイナスが大きい)ほど明るく、これは星空ではトップクラスの明るさです。金星が明るいのは、地球に近いうえ、ぶ厚い雲が太陽の光をよく反射するから。木星は遠いけれど、とにかく大きいから明るく見えます。理由はちがうのに、空では似たくらい目立つ ── そんな2トップが並ぶのが、今回の見どころです。
見るなら、今夜から数日
最接近は6月9日ごろですが、前後数日は十分に近いので、9日に見られなくてもまだ間に合います(私のように曇られてしまった人も、どうかあきらめずに)。観察のポイントはこの3つです。
方角:日の入り後の西〜西北西の低空。
時間:日没の45分後くらいから1時間ほど。空が暗くなりすぎる前、まだ少し明るいうちが狙い目です。
探し方:西の低い空で、いちばん明るく輝くのが金星。そのすぐそばに寄りそう、もう一つの明るい点が木星です。
西の低い空なので、ビルや山で隠れやすいのが難点。新宿のような街なかなら、できるだけ西が開けた場所を探してみてください(街の空で星を探すコツは「都会で星を見る方法」に書きました)。スマホで撮るなら「スマホで星を綺麗に撮影する方法」もどうぞ。ちなみに、これほど近づいて見えるのは当分めずらしく、次のチャンスはしばらく先になるといわれています。見られそうな夜があれば、ぜひ西の空を。
ゲームの中で、天体を導く
少しだけ自分たちのゲームの話を。Gravity Weaver は、重力を描いて光を導き、太陽系を越えていくパズルゲームです。画面の中の惑星は、近いものも遠いものも、奥行きをもって並んでいます。今回の「同じ方向に見えても、奥行きはまるで違う」という話は、宇宙のひろがり ── 平面ではなく、奥行きのある立体だということ ── をそのまま映しています。
並んで見える金星と木星のあいだには、本当は何億kmもの“奥行き”が横たわっている。今夜、もし西の空にふたつの光を見つけたら、その手前と奥を、ちょっと想像してみてください。曇りでひとつも見えなかった私も、頭の中ではしっかり、その奥行きを見上げています。
