連休に予定していたキャンプが、台風で中止になりました。夜、息子とその話をしていたときのことです。
「キャンプで星の観察したかったね」「そうだね、僕は流れ星が見たいな」「8月のキャンプはちょうど流星群が来てたから見られたけど、普段は難しそうだよ」「そっか」「それに流れ星は、望遠鏡を使わずに見ないと」「目が悪いと見えないね」「視力によって、見える星がだいぶ違ってきそうだね」
会話はそこで終わったのですが、あとで気になりました。目がいい人は、本当に星がたくさん見えるのか。目が悪いと、星は見えないのか。そして、なぜ流れ星は望遠鏡で見ないのか。どれも「そんな気がする」で済ませていて、ちゃんと答えられませんでした。調べてみると、見える星の数を決めているものは、視力のほかにも、いくつかありました。順番に整理します。
まず、星の明るさには「目盛り」がある
星の明るさは等級という目盛りで表します。数字が小さいほど明るく、いちばん明るい部類が1等星、暗い空でやっと見えるのが6等星。この6段階は古代ギリシャで生まれ、天文学者ヒッパルコスが始めたと伝えられています。19世紀にイギリスのポグソンが「1等星は6等星のちょうど100倍明るい」と決め直し、1等級ちがうごとに約2.5倍ずつ明るさが変わる、いまの目盛りになりました。
目盛りは6等で終わりではありません。もっと明るいほうへは0等、マイナス1等と続き、全天でいちばん明るい恒星シリウスは−1.5等、満月は−12.7等、太陽は−26.7等。暗いほうへは7等、8等と続き、望遠鏡なら何十等という星まで見えます。肉眼で見えるのは、空が十分に暗いところで6等前後までです。
| 等級 | 目安 | どう見えるか |
|---|---|---|
| −26.7等 | 太陽 | 直視できない(太陽も星?) |
| −12.7等 | 満月 | 影ができる明るさ |
| −1.5等 | シリウス | 恒星でいちばん明るい |
| 0等 | ベガ(織姫星) | 等級の「ものさし」になった星 |
| 2等 | 北極星、北斗七星のほとんどの星 | 街なかでも見える |
| 3等 | ― | 東京の空だと、このあたりが限界 |
| 6等 | ― | 暗い空で、目のいい人がやっと見える |
この目盛りで数えると、6等星までの星は全天で約8,600個あります(理科年表)。ただし空の半分は地面の下ですし、地平線近くの星は空気に邪魔されて暗くなるので、一度に見えるのはその半分以下。それでも数千個です。ところが街なかでは空そのものが明るく、3等星までしか見えないと170個ほどに減り、都心で2等星までなら50個ほどしか残りません(都会で星を見る方法)。
見える星の数を、まず決めているのは空の暗さ ── 視力の話をする前に、数千個と数十個という桁の差は、目ではなく空でついています。8月のキャンプ場でたくさんの星が見えたのは、目がよくなったからではなく、空が暗かったからです
目が悪いと、星はどう見える?
さて本題です。近視の人は、遠くのものがぼやけて見えます。星は「いちばん遠くにあるもの」ですから、ピントの合わない目には、いちばんぼやけて見える対象です。
ここで思い出したいのは、星は面積のない「点」だということです。ピントが合った目には、星の光は網膜の一点に集まります。ピントが合わないと、同じ光が小さな円ににじんで広がる。光の量は変わらないのに広がるぶん薄まるので、暗い星ほど、まわりの空の明るさに溶けて見えなくなっていくと考えられます。逆に明るい星は、にじんで大きな玉のように見えます。「目が悪いと星が見えない」は、暗い星から順に消えていく、という意味で当たっています。
ただし、これはメガネやコンタクトレンズで直せる種類の差です。矯正してピントが合えば、点は点に戻り、見える星の数は視力のいい人と変わりません。ふだんメガネをかけない程度の軽い近視の人でも、星を見るときだけかけると、見える星が増えることがあります。夜は瞳孔が大きく開くぶん、昼よりピントが甘くなりやすいことが知られていて、星を見るためにわずかに度を入れた「星空用メガネ」という商品まであるほどです。
目の「口径」は、年齢で変わる
視力とは別に、もうひとつ星の見え方を左右するものがあります。瞳孔の大きさです。望遠鏡の性能をレンズの直径(口径)で語るのと同じで、目に入る光の量は瞳孔の面積で決まります。明るいところで2〜4mmまで縮んでいる瞳孔は、暗闇では大きく開きます。
そして、この「暗闇で開く大きさ」には年齢差があります。263人の暗闇での瞳孔径を測った2010年の研究(Bradley ら)では、20代の平均が約7.3mmだったのに対し、60代では約5.6mm。面積にすると、若い目のほうが1.7倍ほど多く光を集められる計算です。同じ暗い空の下で、同じ星を見上げても、子どもの目にはパパの目より多くの光が入っている。「息子のほうが暗い星に気づくのが早い」のは、気のせいではなさそうです。
瞳孔は10代半ばごろがいちばん大きく、20代後半から少しずつ小さくなっていくとされます。加えて、目のレンズにあたる水晶体は年齢とともに少し黄色みを帯び、青い光を通しにくくなります。子どもの目は、大人より口径が大きくて透明度の高い望遠鏡、と言えそうです。ただし、どの星を見ればいいか知っていること、じっと待てることでは大人が有利なので、勝負はそう簡単には決まりません。
目の使い方で、見える星は増える
視力も瞳孔も、いますぐには変えられません。でも目の使い方なら今夜から変えられます。
ひとつは、暗闇に目を慣らすこと。明るい部屋から出た直後は数個しか見えない星が、20〜30分待つと何倍にも増えます。これはキャンプで星を見るコツで詳しく書いたので、ここでは「スマホを見ない、赤いライトを使う」とだけ繰り返しておきます。
もうひとつは、あまり知られていない「そらし目」です。暗い星をまっすぐ見つめると消えてしまい、視線を少し横にずらすと浮かんで見える、という現象があります。網膜の中心(ものをはっきり見る部分)には、暗い光を感じる「桿体(かんたい)」という細胞がありません。桿体は中心から20度ほど離れたところにいちばん多いので、見たい星の少し横を見ると、感度の高い部分で星をとらえられるのです。天文ファンのあいだでは基本の技で、双眼鏡で暗い星団を見るときにもよく使います。
子どもに話すなら ── 暗い星は「にらむと消える」。見たい星のちょっと横をぼんやり見ると、目の端っこのほうが暗がりに強いので、星が浮かんでくる
星を使った、昔ながらの目のテスト
視力検査がなかった時代、人々は星で目を試していました。有名なのが北斗七星の「ミザールとアルコル」です。ひしゃくの柄の端から2番目の星ミザール(2.2等)のすぐそばに、アルコルという4等星が寄り添っていて、ふたつを見分けられるかどうかが目のテストになっていました。13世紀のアラビアの学者カズウィーニーが「人々はこの星で視力を試した」と書き残していて、2008年にはアメリカの眼科医がこのテストと現代の視力検査を比べる研究をしています。
ふたつの星の間隔は約12分角。視力1.0の人が見分けられる細かさは1分角ですから、数字の上では楽勝のはずです。ところが実際には、明るいミザールのそばで暗いアルコルが埋もれてしまい、なかなか見つかりません。昼間の視力検査と、暗がりで暗い点を探す力は、別のものなのです。
もうひとつがすばる(プレアデス星団)で、何個の星に分けて見えるかを競います。ふつうの視力で条件がよければ6〜7個。視力の鋭い人なら十数個まで見えるといわれ、25個を数えたという記録もあります。東日本には「六連星(むつらぼし)」という呼び名が残っていて、昔の人の目にも6つに見えていたようです。清少納言が『枕草子』で「星はすばる」と真っ先に挙げたのも、この星の集まりでした。
北斗七星は春、すばるは冬の星なので、次のキャンプでは季節に合わせてどちらかで、親子で勝負してみるつもりです。図鑑のおおぐま座とおうし座のページに、場所の見当がつく星図を載せています。
なぜ流れ星は、望遠鏡で見ないのか
最後に、息子との会話で私が言い切った「流れ星は望遠鏡を使わずに見る」の根拠です。国立天文台の流星群の観察案内には、はっきりこう書かれています。
望遠鏡や双眼鏡などの特別な道具は必要ありません。肉眼で観察してください。望遠鏡や双眼鏡を使用すると、見ることのできる範囲がたいへん狭くなるために、かえって観察しづらくなります。
国立天文台「流星群を観察しよう」
理由は「範囲」です。望遠鏡で見える空の範囲は、倍率にもよりますが満月ひとつ分くらい。双眼鏡でも7度ほどで、手を伸ばしたときのこぶし1個分に足りません。それに対して肉眼の視野は、両目でおよそ200度。空のほとんどが一度に入ります。流れ星はどこに出るか分からず、光っている時間は1秒に満たないので、狭い範囲をのぞいていたら、まず視野に入りません。
だから流れ星に限っては、高い望遠鏡を持っている人より、寝転んで空を広く眺めている子どものほうが有利です。同じ案内には、目が慣れるまで15分ほど待つこと、最低でも15分は観察を続けること、空の広い範囲に注意を向けることも書かれています。8月に見えたペルセウス座流星群も、極大の日が新月で月明かりがなく、この条件がそろっていました(ペルセウス座流星群2026)。
まとめ
• 星の明るさは等級で表す。1等星は6等星の100倍明るく、肉眼で見えるのは暗い空で6等前後まで
• 見える星の数を桁で変えるのは空の暗さ。暗い空で数千個、都心で数十個
• 目が悪いと暗い星から消えていく。ただしメガネやコンタクトで直せば、見える数は同じに戻る
• 暗闇で開く瞳孔は若いほど大きく、20代と60代で集める光は約1.7倍ちがう
• そらし目と暗順応で、今夜からでも見える星は増える
• 昔ながらの目のテストはアルコルとすばる。次のキャンプで親子勝負
• 流れ星は肉眼で。望遠鏡は約1度、双眼鏡は約7度、肉眼は約200度
息子の「目が悪いと見えないね」は、半分当たっていました。ピントが合わない目には、暗い星から順に見えなくなる。でもそれはメガネで戻せる差で、見える星の数を本当に決めているのは、空の暗さと、目の使い方のほうでした。そして流れ星に関しては、若くて瞳の大きい目で、道具を持たずに空を広く眺める息子のほうが、私より確実に有利です。
中止になったキャンプの代わりは、12月に取っておくことにしました。ふたご座流星群の極大は12月14日の23時ごろ、月は21時ごろに沈むので月明かりの心配がなく、暗い空なら1時間に最大60個ほどと予想されています(国立天文台)。寒い夜になりますが、寝転んで、望遠鏡は使わずに、目の端で空を眺める。今回調べたことを、そのまま試してみるつもりです。
