このブログの記事には、日本語と英語の両方の表示を用意しています。ふだんは日本語で書いてから英語版を作るのですが、最近、同じ場所で何度も手が止まることに気づきました。「星」が、そのまま英語にできないのです。
一番星、流れ星、お星さま——日本語では当たり前の「星」を star と書くと、英語では間違いになる場面が次々に出てきます。息子に話したら、あっさり言われました。「だって、月も星でしょ」。そのとおり。でも英語の star に月は入りません。この「ずれ」、調べてみたら思った以上に面白かったので、今回は言葉の話です。
日本語の「星」は、大家族
日本語の「星」がどれだけ広いか、ならべてみます。
| よび名 | 正体 | 英語では |
|---|---|---|
| 一番星 | たいてい金星(惑星) | the evening star(でも star じゃない) |
| 流れ星 | 宇宙の塵が光る現象 | shooting star(これも star じゃない) |
| ほうき星 | 彗星 | comet |
| お星さま | 夜空に光る点ぜんぶ | ——総称にあたる日常語がない |
金星も、塵も、彗星も、日本語ではぜんぶ「星」の仲間。童謡でも星に願いごとをするときも、いちいち種類は問いません。「夜空に光る小さな点は、みんな星」——これが日本語の感覚です。
面白いことに、国語辞典を引くと「ふつう、天体のうち、太陽と地球と月を除いた恒星・惑星・彗星・星団あるいは星座をいう」(デジタル大辞泉)とあります。おや、辞書は「月は星に入れない」派か——と思いきや、別の辞典にはこうありました。「一般には太陽・月・地球を除く天体。広義には、すべての天体」(精選版 日本国語大辞典)。つまり辞書自身が、「ふつうは入れない。でも広くとれば入る」と両方書いているのです。「月も星だよね」という子どもの語感は、ちゃんと広義のほうに正しく乗っています。
英語の star は、せまい
いっぽう英語の star は、天文学はもちろん日常語としても、基本的に恒星=太陽のように自分で光る星を指します。惑星は planet、月(衛星)は moon、彗星は comet と、それぞれ別の単語。そして面白いことに、これらをまとめて呼べる「星」にあたるふだん使いの総称がありません。celestial body(天体)という言葉はありますが、子どもとの会話で出てくる言葉ではない、かなり硬い言い方です。
つまり「月も星だよね」という日本語の会話は、英語には直訳できないのです。"The moon is a star, right?" と言ったら、それは間違いになってしまう。
……と思いきや、英語も実は雑だった
「英語は理屈どおりに分けていてえらい」と思いかけたのですが、よく見ると英語もぜんぜん徹底していません。
shooting star(流れ星) ── star と呼んでいるが、正体は上空100kmで光る小さな塵。恒星ではまったくない
the morning star / the evening star(明けの明星・宵の明星) ── どちらも金星のこと。惑星なのに star
starfish(ヒトデ)・stardust・star of the show ── star は「星形」「輝くもの」へどんどん広がっていく
結局のところ、英語も昔の人の「夜空に光る点はみんな star」という感覚から出発して、あとから天文学が planet や meteor を切り分けた、という順番なのです。切り分ける前の古い言い方が、shooting star や evening star にそのまま化石のように残っている。どちらの言語が正しいのでもなく、言葉のほうが科学より先にあった——それだけのことでした。
語源をたどると、昔の人の観察が見える
ここからが今回いちばん面白かったところです。星の言葉の語源には、望遠鏡のない時代の人たちの観察がそのまま刻まれています。
planet はギリシャ語の「プラネテス」=さまよう者。星座を作る星々は、たがいの位置関係を変えずに空を回ります(星座の形が変わらない話)。ところが5つの星——水星・金星・火星・木星・土星——だけは、星座のあいだをふらふらと移動していく。古代ギリシャの人はこれを「さまよう者たち」と呼びました。望遠鏡がなくても、惑星が特別だと見抜いていたわけです。ちなみに、水中をただよう「プランクトン」も同じ語源の仲間だそうです。
日本語の「惑星」は「惑う星」。江戸時代の1792年、オランダ語の天文書を翻訳した通詞・本木良永が使ったのが早い例とされています。発想はギリシャ語とまったく同じ、「位置の定まらない、惑う星」。さらに明治時代には、東京大学系の「惑星」と京都大学系の「遊星」(遊ぶ星=あそび歩く星)という2つの訳語が並び立ち、最終的に「惑星」が標準になったという経緯があるそうです。「遊星」も詩的でいい言葉ですよね。
星の漢字はどれも「観察の記録」
• 恒星 ── 「恒」は"常に変わらない"。位置関係を変えない星
• 惑星 ── "惑う"星。星座のあいだをさまよう星
• 彗星 ── 「彗」は"ほうき"。長い尾を引く、ほうき星
• 流星 ── "流れる"星。一瞬で夜空を流れる光
どれも、見たままの姿が名前になっています。
まとめ
• 日本語の「星」は月も惑星も流れ星も含む大家族(辞書も「ふつうは太陽・地球・月を除く/広義にはすべての天体」と両方書いている)
• 英語の star は基本的に恒星だけ。planet / moon / comet は別の単語で、まとめる日常語がない
• ただし英語も shooting star・evening star など、科学で切り分ける前の古い感覚が化石として残っている
• planet はギリシャ語「さまよう者」、惑星は「惑う星」(1792年・本木良永)。明治には「遊星」との対決もあった
• 恒・惑・彗・流——星の漢字は昔の人の観察記録そのもの
言葉のずれは、間違いではなく歴史でした。恒星と惑星のきちんとした分類の話は「光る星と光らない星」に書いたので、そちらもどうぞ。
ところで息子はこの話を聞き終えて、ひとこと。「じゃあ、太陽も星?」——はい、太陽は正真正銘の star(恒星)です。いちばん身近すぎて、星に見えないだけ。この話はまたいつか。
