PYXIS

らしんばん座 ― アルゴ船のそばに置かれた、船には無かった道具

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Constellation artwork © Johan Meuris / Stellarium — Free Art License (recolored & repositioned for display)

略符
Pyx
最も明るい星
α Pyx
観測時期
春(北半球)
面積順位
65th
日本での見つけやすさ
★★★★☆
見えるが暗い・小さい

概要

らしんばん座は、春の宵に南の低い空へ顔を出す小さな星座です。面積は88星座中65位(約221平方度)で、いちばん明るいα星でも3.68等と、目を引く星はひとつもありません。とも座の東どなり、うみへび座の心臓アルファルドのはるか南にあり、東京付近ではα星が南中しても高さ21度ほど。南の空が開けた暗い場所でなければ、姿をたどるのが難しい星座です。星座線は、α星を真ん中に南北へ伸びる3つの星だけの短い線で、にぎやかなとも座や、うみへび座の長い体のそばでひっそりと立つ棒のような姿をしています。赤経ではかに座とほぼ同じで、かに座が南中するころ、その真下の地平線近くでらしんばん座も南中します。

18世紀半ば、フランスの天文学者ニコラ=ルイ・ド・ラカーユが、南アフリカの喜望峰に滞在して南天の星を観測したあとに設けた近代星座のひとつです。ラカーユは喜望峰に2年ほど滞在し、1751年から52年にかけての観測で約1万個の南天の星を測り、どの星座にも属していなかった星々をまとめて、新しい星座を次々に設けました。らしんばん座は1752年の報告でフランス語の「ラ・ブソール(羅針盤)」として紹介し、1763年の星図ではラテン語で「ピクシス・ナウティカ(航海用の羅針盤)」と記しました。その後、後半が省かれて現在のピクシス(Pyxis)になっています。

ラカーユは同じ時期に、古代の巨大な星座アルゴ座(アルゴ船)を、りゅうこつ座・とも座・ほ座の3つに分けました。らしんばん座はちょうど船の帆柱が立つあたり、船尾のすぐ上に位置します。ただしラカーユはこれを船の一部ではなく独立した星座として扱い、バイエル符号もアルゴ船とは別に付けています。りゅうこつ座・とも座・ほ座の3つが元の船の符号(α星はりゅうこつ座のカノープス、γ星はほ座、ζ星はとも座、というように)を分け合って受け継いだのに対し、らしんばん座は最初から自前のα星・β星・γ星をもっているわけです。船と一緒に分割されなかったことが、のちの「帆柱」への改名騒動につながりました。

見つけ方

2月から3月の午後9時から10時ごろ、南の空の低いところに目を向けます。目印は2つ。冬の大三角の南の頂点シリウス(おおいぬ座)と、春の南の空でぽつんと光るうみへび座の2等星アルファルドです。らしんばん座は、シリウスの東(左)およそ30度、アルファルドの南およそ25度の、ちょうど両者に挟まれたあたりにあります。東京付近ではα星が高さ21度ほど、北端のγ星でも27度ほどにしか上がらないので、南の低空に建物や山のない場所を選んでください。時期をずらすなら、1月は深夜、4月は日暮れ後まもなく南中します。

星座線はごく単純で、α星を真ん中に、南のβ星と北のγ星をつないだ、少し折れた縦の線です。3.7等・4.0等・4.0等と明るさがそろっているので、暗い空では南北にほぼ縦に並ぶ3つの星として見つかります。全体の長さは8度ほどで、船尾に帆柱を立てたような姿です。α星は青白く、β星は黄色、γ星はオレンジ色と3つの色が違うのも、暗い空で見比べたときの楽しみです。西どなりのとも座には2等星ナオス(ζ星)をはじめ明るい星が多く、東どなりのポンプ座はさらに暗いので、にぎやかなとも座から東へ視線を移して「星が急に少なくなる」あたりを探すのがコツです。

街の空では、3つの星とも見えません。まずシリウスからとも座の明るい星を東へたどり、その先を双眼鏡でゆっくり流すと、縦に並んだ3つの星が視野に入ります。同じ夜には、南西に沈みかけたシリウス、南の低空のらしんばん座、南東に昇るアルファルドと、冬から春への星の入れ替わりを一望できます。春の南の空は霞みやすいので、空気の澄んだ日の夜半前が狙い目です。双眼鏡があれば、α星の東(わずかに北寄り)4度半ほどにある反復新星T星の位置も確かめられますが、普段は15.5等と暗く、爆発のときにしか小さな望遠鏡には映りません。北緯52度より南なら星座の全域が見えるので、日本では沖縄から北海道まで、どこからでも星座全体を見ることができます。

神話と文化

らしんばん座に古代の神話はありません。ラカーユは南天に、望遠鏡・顕微鏡・時計・ポンプなど、当時の科学と技術を象徴する道具の星座を14設けました。ぼうえんきょう座・けんびきょう座・とけい座・ポンプ座・ちょうこくぐ座・じょうぎ座・コンパス座・レチクル座・ろ座・がか座・はちぶんぎ座・ちょうこくしつ座・テーブルさん座、そしてらしんばん座です。ギリシャ神話の英雄や動物ではなく、実験室と航海の道具ばかりを並べたところに、啓蒙時代の科学者らしい感覚が表れています。らしんばん座は、船乗りの道具である航海用の羅針盤をかたどった星座です。なお、製図用のコンパスをかたどった「コンパス座」は別の星座で、英語でもCircinus(コンパス座)とPyxis(らしんばん座)で区別されています。すぐ隣にアルゴ船の3星座があるのは偶然ではなく、船を分割したのと同じ時期に、船のそばに航海の道具を置いたことになります。

ただし、神話のアルゴ船に羅針盤はありませんでした。方位磁針が航海に使われるようになったのは中世になってからで、イアソンたちが金の羊毛を求めて海を渡ったとされる時代には存在しない道具です。古代ギリシャでは、このあたりの4つほどの星は船の帆柱の一部と見なされていました。この「時代違い」を気にした天文学者もいて、イギリスのジョン・ハーシェルは1840年代に、この星座を帆柱を意味する「マルス(Malus)」と改名し、アルゴ船を古典的な姿に戻すことを提案しました。それより前の1801年には、ドイツのボーデが星図に、このあたりを覆う測程器(船の速さを測るロープ)の星座「ロキウム・フニス」を描いています。しかしどちらも定着せず、アメリカのベンジャミン・グールドが1879年の星表でラカーユの名前を復活させ、1922年の国際天文学連合でPyxisが正式に88星座のひとつと定められました。

中国の星座では、α星・β星・γ星(とδ星)は、ほ座の星とともに「天狗(てんこう)」という星官を作っていました。天狗は二十八宿の鬼宿に属し、天を守る犬を表します。資料によっては、これらの星をポンプ座の星と合わせて、皇帝の祖先をまつる霊廟「天廟(てんびょう)」の一部とするものもあり、同じ星の割り当てが本によって違っていたようです。日本語名は1910年ごろから「羅針盤」と呼ばれ、1925年の理科年表にも「羅針盤(らしんばん)」として載りました。1952年に日本天文学会が「らしんばん」を正式な学名と定め、今に至ります。

星の豆知識

α Pyx — らしんばん座でいちばん明るい3.68等の星ですが、実は約880光年もの遠くにある青白い巨星です。B1.5型で表面温度は約24,000度、質量は太陽の10倍以上あり、いずれ超新星として一生を終えると考えられています。明るさがごくわずかに脈打つβケフェウス型変光星でもあり、変光幅は肉眼では分からない程度です。近くて暗い星と、遠くて明るい星が同じ等級に見える、星の明るさの奥深さを教えてくれる星です。

β Pyx と γ Pyx — 南のβ星は約420光年にある3.97等の黄色い巨星で、半径は太陽の20倍ほど。進化の進んだ巨星にしては自転が速いことが知られていて、近くを回っていた巨大惑星(ホットジュピター)を飲み込んだために回転が速まったのではないか、という仮説が出されています。12.7秒角ほど離れたところに12.5等の暗い星が見えますが、これは見かけ上並んでいるだけの星です。北のγ星は約207光年にある4.0等のオレンジ色の巨星で、半径は太陽の22倍ほど。中心で水素ではなくヘリウムを燃やす段階に入った、年老いた星です。3つの星は縦にきれいに並んで見えますが、実際の距離は207光年・420光年・880光年とばらばらで、たまたま同じ方向に重なって見えているだけです。このほか、らしんばん座には太陽系外惑星が見つかった星が3つあり、約119光年のHD 73256には2.55日で主星を一周するホットジュピターが、約50光年の赤色矮星グリーゼ317には2つの巨大ガス惑星があります。

T Pyx(反復新星) — α星の東およそ4度半、わずかに北寄りにある、らしんばん座でいちばん有名な星です。白色矮星と小さな伴星がわずか1.8時間で互いを回る連星で、伴星から流れ込んだガスが白色矮星の表面で核爆発を起こすたびに「新星」として輝きます。1890年、1902年、1920年、1944年、1966年、2011年の6回、普段の15.5等から7等前後まで急に明るくなりました。2011年の増光は4月14日にアマチュア観測者が発見し、ハッブル宇宙望遠鏡が周囲のガスに反射する「光のこだま」を追って、約15,600光年という距離を精密に測りました。白色矮星が質量を蓄えつづければ、遠い将来にIa型超新星になる可能性も議論されています。次の爆発がいつ来るかは分からず、世界の変光星観測者が今も見張りつづけている星です。

NGC 2818 とらしんばん座の球状星団 — NGC 2818は約10,000光年にある惑星状星雲で、散開星団NGC 2818Aの中にあります。星団と星雲がたまたま重なって見えているだけという説もありましたが、近年の研究は星雲が星団の一員だとしていて、散開星団の中に惑星状星雲がある珍しい例です。ハッブル宇宙望遠鏡が窒素・水素・酸素の光を色分けした画像を撮っています。もうひとつ、1995年に見つかった「らしんばん座球状星団」は、天の川銀河の外れ約130,000光年を回る古い星団で、大マゼラン雲からやってきた可能性が指摘されています。

Gravity Weaver での攻略

らしんばん座は、ゲームでは3ステージ構成の短い星座。α星から始まり、南のβ星、北のγ星の順に、船尾に帆柱を立てるように縦の線を灯していきます。星座の登場順はプレイごとに変わり、日本で見つけにくい星座ほどゲームでも出にくくなっています。

主役ギミックは Stream(重力流)。画面を横切るシアン色の流れが、太陽のかけらを矢印の向きに加速させます。羅針盤で針の向きを読むように、まず流れの向きと次の星の方向を見比べましょう。向きが合えば少ない手数で長い距離を稼げますが、勢いのまま流れの先のブラックホールに向かうと引力を振り切れません。流れの手前で進入角を整え、抜けた先に小さな引力場を置いて受け止めるのがコツです。

3ステージと短い星座ですが、後半にはパルサーと減速雲(Nebula)が加わります。β星からγ星へは、α星のそばを通り越して北へ向かう長めの投擲になるので、減速雲に入る前に流れで勢いをつけ、パルサーの点滅と同心円リングで次の発射を読み、「無音時間」に一気に抜ける二段構えで進みましょう。パルスに押し出されても破壊はされないので、引力場で軌道を引き戻せば立て直せます。針路さえ決まれば、一気に灯し終えられる星座です。

らしんばん座を本編で描いて、集めよう

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主な星

星名 バイエル符号 等級 スペクトル型
α Pyxα Pyx3.68B1.5 III
β Pyxβ Pyx3.97G5 II/III
γ Pyxγ Pyx4.02K3 III
κ Pyxκ Pyx4.62K4/K5 III
θ Pyxθ Pyx4.71M0 III
λ Pyxλ Pyx4.71G8 III
ζ Pyxζ Pyx4.86G5 III
δ Pyxδ Pyx4.87A3 IV
η Pyxη Pyx5.24A0 V

「Gravity Merge」の星座帳にらしんばん座を灯そう

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